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セミナー報告

水野カオルさんに聞く、Ponteとやまの12年——「斜めの関係」がつくる、食べる・学ぶ・働く場所

2026年5月24日(日)、ゲストトーク「一緒に食べる・学ぶ・働く場所づくり〜Ponteとやまで毎日を歩む水野カオルさんのお話」をオンライン開催しました。

ゲストは、富山県砺波市から、一般社団法人Ponteとやま代表理事の水野カオル(みずの かおる)さん。21年間の公立学校教諭を経て、2014年に加藤愛理子さんと法人を立ち上げ、「みやの森カフェ」を拠点に12年の実践を積み重ねてこられました。ファシリテーターは飯野由里子さん(東京大学バリアフリー教育開発研究センター 特任教授)、主催は平林ルミ(学びプラネット合同会社代表)が務めました。


カフェから始まる、ごちゃ混ぜの場

団体名「Ponte」はイタリア語で「橋」。民間の小さな団体は3年続くかどうかが分かれ目だと立ち上げ時に言われたという水野さんですが、おかげさまで12年目を迎えました——と話は始まりました。

きっかけは、相棒となる加藤愛理子さんが砺波市の自宅の庭に建てた小さな白い建物。そこで「みやの森カフェ」が始まります。愛理子さんが大切にしているのは「食べるものには力がある」という実感。最初はなかなか地域の人が来てくれなかったところから、外国人実習生、ダルクのメンバー、子育て中のママ、小中学生まで、世代も背景もまざる場所へと育っていきました。

困りごとは多様なので、比べ合わなかったり、比べられないという良さがある。共通しているのは「生きづらさ」だけ。

子ども・若者だけの場、障害のある人だけの場、お年寄りだけの場——そうやって分けるのではなく、「ごちゃ混ぜ」のまま日常を一緒に過ごす。その中で人は影響し合い、学び合う。そうやって場を育てる手応えを、12年で確信に変えてきたといいます。


「フリースタイルスクール」——大人がお膳立てしない

2023年4月、シェアハウスとなったカフェの斜め向かいの一階でフリースタイルスクールが始まりました。「フリースクール」と呼ばないのは、小さな抵抗だと水野さんは語ります。

学校という枠の中で辛くなった子たちが、また大人が作った枠の中はきっと嫌だろう。読み書きが苦手な子たちは「勉強の香り」がすると拒絶反応を示すから、「フリースクール」と聞いただけで構える。

特別なプログラムはありません。ゲームも禁止しない。並んで画面を見る関係から緊張がほぐれ、学校で苦手だった縄跳びや跳び箱と違って、ゲームには「力関係の逆転」が起こる場面もあります。

そして子どもたちはやがて「暇」と言い始めます。

「暇」と言ったら、次のチャンスが来るのかなと思っている。でも、そこでも「じゃあこんなことやる」とは大人は言わない。

子どもたち同士で相談し、若いスタッフに「これやっていい?」と聞きに来る。大人はお膳立てをせずに一緒に面白がる——その関わり方が積み重なって、運動会やお泊まり会、ピザ作りや夏祭り出店、毎日のように続いた穴掘りダムづくりが、子どもたちの側から立ち上がっていきます。


斜めの関係——上下でも横でもなく

スタッフの中心は、凸凹のある若者たちです。傷つき体験を持ってきた人が多く、子どもから声をかけられると最初は全部応えようとして消耗してしまう。距離感も難しい。水野さんが時に介入しながら、若者と子どもが一緒に成長していく場として運営しているといいます。

私たちのまわりには「斜めの関係」が溢れているのかなと思う。上下でも横でもないから、指示命令もなく、比べられない。そういう中で、人は安心して遊ぶことができ、そこから学ぶことができる。

中1の頃は「クソ・死ね・ボケ」しか口にしなかった男の子が、中3卒業を迎える頃には本来の優しさが前面に出てきた。地元のテレビ局の取材に「学校に行ってないけど、ここに来ることは悪いことじゃない。なんで顔を隠さなきゃいけないのか」と顔出し・名前出しで応えた男の子もいるそうです。子どもが自分の場所を「悪くない場所」として引き受けるとき、そう言葉が出てくるのだと感じさせるエピソードでした。


制度の外で「働く」をつくる——特養クリーンチーム

後半、水野さんは就労サポートへと話を進めました。きっかけは、特別養護老人ホームの理事長から「人手不足」を相談されたこと。マルチタスクや臨機応変が苦手な若者たちに介護現場はどうかと迷いつつ、水野さん自身が一週間、介護現場に潜入して働いてみたといいます。

介護補助の仕事なら、切り分け方と見通しの立て方を工夫すればできそうだ——その見立てから一人を雇用してもらい、その方は今も継続して働いています。毎日同じエプロンで目印にしてもらう、「今お話中ですからこっち通ってください」と声をかけてもらう。小さな環境調整と「通訳」の積み重ねで、職場の側にも若者の側にも変化が生まれていきました。

そこから屋外のベランダ清掃と草刈り(練習段階)→室内清掃(賃金が発生する仕事)へと段階を作り、ポンテとやまクリーンチームが結成されます。現在は10代から60代まで22名。決められた時間に集合する、遅刻時に連絡する、準備と片付け、報告連絡相談、体調管理——「多数派が小中高で何となく身につけてきたこと」を、ここで初めて練習しているメンバーが多いといいます。

能力が低いわけではなく、小中高は周りに合わせるので精いっぱいで、身についてこなかった。

若者たちがアンケートに書いてくれた声は、「理不尽な出来事がない」「仕事が遅くても、何度質問しても怒られない」「仲間がいて聞き合える」。スタートとゴールが見えやすい仕事を体を動かしながら積み重ね、賃金を得て、次のステップを考える土台がつくられていきます。


役割と承認、そして居場所

水野さんがまとめとして語ったのは、シンプルなことでした。

大切にしているのは、支援する人・される人という関係性を作らないこと。誰かのためにやるのではない。

子どもを救おう、困っている人を救おうとはやっていない——だから依存や支配が生まれにくい。結果としてその人が助かることはあるし、それは自分たちを助けることにもつながっている、と水野さんは言います。

そして「居場所」。家にも学校にも職場にも居場所がない人はたくさんいる。けれど居場所は、家でも学校でも職場でなくてもいい。地域は町内会よりももっと広い。オンライン上でもいい。

居場所があると人は安心していられる。そこに人とのつながりがあり、役割があり、ありがとうと言われる、笑い合える。それが可能になったら、人は本来の日常を取り戻すことができる。

ファシリテーターの飯野さんは、トークの中で「役割と承認」というキーワードを示しました。お金とちがって、承認は人との関わりの中でしか得られない——その関わりにアクセスする機会と環境を、Ponteとやまはずっとつくり続けている。学校という成績重視の仕組みの外に出るのが難しい年齢で自信を失った人が、ここで役割を得て、試行錯誤して、ありがとうと言われる経験を重ねる。その積み重ねが自信に変わっていく過程が、12年の実践に重なっていきました。

「ごちゃ混ぜから安心できる場所になる」転換点はどこかという問いに、水野さんは余白と変更可能性を挙げます。一人になれる余白があり、辛くなったら「分けてください」と申し出れば話し合って変えられる。仲良くしなさい・助け合いましょうという同調圧力ではなく、申し出れば調整される——その関わり方こそが、「理不尽さがない」という若者たちの実感を支えているのだと感じる対話でした。


アーカイブ配信のご案内

当日ご参加いただけなかった方も、Peatixのページからあとから配信のお申し込みができます。

ゲストトーク「一緒に食べる・学ぶ・働く場所づくり」アーカイブお申し込み(Peatix)

子ども・若者の支援に関わる方、地域の中で「もう一つの場所」をつくりたい方、教育・福祉・医療の現場で日々奮闘されている方に、Ponteとやまの12年の実践の蓄積が届きますように。


Ponteとやまについて

一般社団法人Ponteとやま ウェブサイト

水野さんが共著で参加された『庭に小さなカフェを作ったらみんなの居場所になった』(南雲明彦編著、ぶどう社、2019年)の続編が2026年秋〜冬に出版予定とのことです。


今後のセミナー・イベント予定

インクルーシブな学校づくり研究会 2026年度(6月スタート)
東京大学バリアフリー教育開発研究センター主催、学びプラネット協力。「社会モデル」の理解と実践を軸に、学校現場のバリアを発見し、どう取り除けるかを学校の先生・支援者と一緒に考える研究会です。月1回オンライン・全10回(6月〜3月)、勤務時間内(15:10〜16:50)の開催。連携協定自治体の学校は無料、学校・非営利団体は年間6万円、個人(教職員等)は年間3万円。年間参加校には3つの授業教材も提供されます。

研究会の詳細・申込(学びプラネット)

インクルーシブな学校づくりハンドブック2025
2025年度の研究会の成果をまとめた年次刊行物。2025年版の特集テーマは「インクルージョン」です。2025年版は、特集テーマを「インクルージョン」とし、インクルーシブ平等の考え方、社会モデルと人権モデル、学校現場での具体的な実践事例、合理的配慮や環境整備、そして「インクルージョンの指針」を活用した自校の振り返り方を収録しています。

2025年版より1,500円での頒布となりました。Peatixの「インクルーシブな学校づくり研究会2026」ページでハンドブック2025チケットからご購入いただけます。

ハンドブック2025の詳細(学びプラネット)

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